2012年2月19日日曜日

永原慶二『苧麻(ちょま)・絹・木綿の社会史』(吉川弘文館、2004年)


■永原慶二さんの遺作となった『苧麻(ちょま)・絹・木綿の社会史』(吉川弘文館、2004年)の「Ⅳ 苧麻から木綿へ」には副題として「ー改訂増補『新・木綿以前のこと』ー」と記載されている。カラムシに関わる人には必読すべき基本文献である。355ページ、索引あり、3200円。
 筆者は1990年に中公新書から『新・木綿以前のこと 苧麻から木綿へ』を刊行している。しかし不安の残る使用史料の若干を削除し、他方新しく見出した史料を挿入・使用し、本書では大きく改めている。
 改訂の核心は二つ。中公新書では、苧麻をもっぱら中世の民衆衣料とし、「苧麻から木綿へ」という単線的とらえ方の上に、木綿登場の歴史的意義を強調したことの問題である。しかし実際に苧麻は古代・中世を通じて支配層の求める高級苧布(白布・上布)と民衆的衣料としての苧麻布は、役割を異にしながら併存した点を重視。中公新書では、このような点についての明確な認識が十分でなかったため、論の展開が単純化されていた。
 また中公新書では、木綿は江戸時代中期以降という常識的理解を是正し、15世紀末から16世紀の導入・展開を強調したが、その際に使用した史料の二、三についてのその解釈には再検討すべき問題があり、木綿生産の労働・技術条件の軽易さを、越後上布の高度に技巧化された生産・労働条件の困難さとの対比が、必ずしも適切でなかった(172、173ページ)。
■本書では203ページから福島県大沼郡昭和村の苧麻(カラムシ)栽培について言及がある。また204ページには昭和村で撮影された写真が掲載されている。
 写真の引用された著作は平凡社『別冊太陽』の1984年「日本の布 原始布探訪」と2004年「日本の自然布」である。撮影は藤森武。
 中公新書にもこれら写真は引用されている。ただ中公新書の37ページの掲載写真のキャプションは誤りであり、写真を見る限り植物葉から苧麻畑であることがわかる。
 筆者は越後(新潟県)は調査されているが、昭和村に来たような形跡はうかがえない。会津若松の佐瀬与次右衛門『会津農書』(1684年)の引用は各所にある。