2010年10月15日金曜日

カラムシを支えるコガヤ(カリヤス)

カラムシ栽培におけるコガヤ(カリヤス)の重要性
菅家博昭

 ボーガヤ(植物和名ススキ)とコガヤ(植物和名カリヤス)。形状は似ているが、異なる植物として認識され福島県奥会津の昭和村では古くからそれぞれに暮らしのなかにおいて利用されてきた。
 イネ科のススキ属Miscanthus Anderssonには3種類ある。ススキMiscanthus sinensis Andersson、オギMiscanthus sacchariflorus、カリヤスMiscanthus tinctorius。いずれも昭和村で現在も生育が確認されている。
 特にカリヤスは岐阜県富山県を中心とする中部山地に分布は濃く、東北地方南部までが分布域である。ススキに比べ桿が細く刈りやすく、合掌作りの屋根に、ススキ(大萱)とともにカリヤス(小萱)も使われる。その理由はススキよりも長持ちする、という。富山県五箇荘ではカリヤスが屋根材に使われているが、近年身近なススキから、かつての屋根材カリヤスを要望する事例が茅葺き保存家屋の改修時に、出て来ている(※1)。

 カリヤスは、昭和村ではコガヤと呼ばれている。ススキはボーガヤである。ボーガヤは棒茅の意だと思われ昭和村域では使用されているが大茅と呼ぶ地域も隣接の柳津町冑中等にはある。中部山岳地域も大茅・小茅と呼んでいる。異なる植物として、明確に分けている。
昭和村で「カヤバ(カヤカリバ)」とは、共有利用を前提として採取制限(禁止)を持ち、春の山焼きが行われ、秋彼岸以降に、やまのくちあけ(山の口、鎌揃え)で開放・採取開始する、コガヤ(カリヤス)を刈る半自然草地のことである。これらは第2次大戦前後まで昭和村内の全域(各集落)で、行われていた。集落を取り囲む山塊のなかに複数設置されている。
 カヤバの春の山焼きは、残雪が尾根筋に残る時期に前年の草類が乾燥して燃えやすい時期に、斜面下方から火を点火し、そのままに放置するもので「くっつげはなし」(松山 ※2)とよばれていた。火は消さず自然鎮火を待つため数日から1週間も燃え、時に尾根を越えて隣村の山まで焼けたことがある、という(大芦)。
 コガヤを刈る時期は旧暦の秋彼岸後で、水田での稲刈り等との関係で採取(刈り取り)時期が集落毎に決められていた。すでに立ち枯れし乾燥が進んでいることもあるが、3把(は、束)で立てさらに3把重ねての6把立が多く、それで乾燥させる。カヤマキ、カヤボッチはタテ(立)で数える。乾燥後、それを集落に運搬した。
 晩秋、集落のなかの家屋(母屋)外壁にはコガヤを2段、3段に巻き、フユガキ(冬囲い・雪囲い)とした。春先に飼育動物(馬牛等)の餌が無くなると、このフユガキを外して与えることもあった。土蔵等にはボーガヤ(ススキ)をフユガキとして、これは外しながら木炭を入れるスゴを編んだ(大岐)。
 これまで現代語訳の筆耕が存在していたが、喜多方市立図書館蔵で、喜多方市教育委員会の協力でその原本がはじめて今回の「からむし畑」展の事前調査で確認された。安政五年(1858)に松山村(現在の昭和村大字松山)の佐々木志摩之助が書いた「青苧仕法書上」という近世江戸時代のカラムシ栽培の手引き書で、ほぼ現在に伝わる内容と同じであることを証左している。特に秋にカヤを刈り、家の冬囲いとし来春そのカヤでカラムシ(青苧)を焼くということも明記されている。
 フユガキのコガヤは、カラムシ畑に運ばれ、焼き草として畑に散らし(掛けて)焼かれる。焼畑のときの、コガヤの火力がカラムシの芽を揃える、品質確保のためには必要なものであったようだ。コガヤでなければならない理由の今後の聞き取り調査が待たれる。カラムシ畑を焼くには、ボーガヤだと火力が強い、あるいは太くて燃えないなどの問題がある(小中津川)。
 2010年9月17日(金)雨の午前、昭和村小中津川の柳沢で、本名初好さん(昭和13年生)が茅刈りをしていたので、話をうかがった。四畝歩のカラムシ畑を春に焼くためのカヤ(ススキ)の調達をしている。コガヤ(カリヤス)は少なくなり、ボーガヤ(ススキ)を刈っている。左手で三つかみで1束とし1把(いっぱ)。それを3把で立てて、上に3把を重ねる。1立(ひとたて)は6把(ろっぱ)立て。これを30立(たて)、昨年(2009年)秋に刈って乾燥させ、翌春(つまりこの春5月)に、焼草とした。茎が太いと燃えないから根本から50cmくらいは切り捨て、残った上部のみ使っているという。
 4畝(アール・a)のカラムシ焼に必要なカヤは、30立て。180把である、ということが明らかになった。本来はコガヤ(植物和名カリヤス)が良いがいまは少ない。

 さて、カヤバの管理は、どのようにしたのか?といえば、「秋にコガヤを刈るときに手入れした」といい、その内容は「生えてきた樹木を根本から切り、不要な草類も刈り、そこに置いた」という管理であった(大岐)。
 「コガヤはカヤバの周囲の樹木が育ち日陰になると消え」「ボーガヤに負けて株が無くなる」という。「肥えた土地にはボーガヤが育ち、やせた硬い土のところにはコガヤが育つ」といい「コガヤのカヤバにはシメジもよく出る」という(大岐)。カヤバは春の山菜であるワラビも多く出、また夏の盆にはボンバナと称するオミナエシ、ワレモコウ、キキョウなどの野の花が採取され仏前・墓前に手向けられた。
昭和村における草の利用は馬の飼育のための秣(まぐさ)、いわゆる朝草刈り、冬の飼育飼料としてのカッタテ・カッポシ(乾燥草)を草のショウ(生)が抜ける前の秋彼岸前に刈る。そして屋根材のボーガヤ確保、フユガキとカラムシ焼き・屋根の補修のサシガヤとしてのコガヤの刈り取り、、、と目的に応じた草の確保、半自然草地の維持管理が行われていた。しかしその具体的な内実はしられていない。稲刈り後、稲束をネリ(稲架)で乾燥する。その際の最上段は「カサイネ(笠稲)」と呼び、湿気が最後まで抜けないため別に管理する。このカサイネをカラムシ畑のほとりに運ぶ(カサワラ)。カラムシ焼き畑後に散らすしきわらとして湿気具合、風で飛ばないなど使いやすいのだ、という(大岐、大芦)。
 昭和村におけるカラムシ栽培・青苧生産については、それを支える広大なカヤバ(カリヤス草地)の存在。植物、特に多用な草ヒロロ(ミヤマカンスゲ)や蔓のマタタビ、モワダ(シナ)等樹皮を維持管理し、それを生活の中で活用してきた。その基層文化、生活技術、自然認識のうえに、カラムシ栽培・生産が形成されている。カラムシ単独では持続はあり得ず、その全体像を明らかにすることと、カラムシにつながる生活技術を復権するひとつの試みとして、たとえば遊休農地等にコガヤ(カリヤス)を生産する小茅畑の復活が待たれる。
 また近年、減農薬農業を政府が推進しているが、そのなかの技術にバンカープランツがある。目的とする植物(野菜等)の園地をトウモロコシ等の背の高い植物等で帯状に周囲を取り囲む。このことで囲う植物帯で侵入する昆虫等を遮蔽し、あるいは遮蔽帯に小さな生態系を作り、この囲い植物帯から園地に益虫を供給する、という農法。これはかつて昭和村域でアサとカラムシの栽培が行われていた時代の、カラムシ畑をアサで囲む技法に似ている。風除けとしてのアサの利用であるが、昆虫への対応など、このような伝統技術の現代的解明も今後必要になっている。「ウセクチ」のカラムシ畑にアサを蒔く、という連作障害回避技術解明も含めて、現在の「からむし畑」の技術解明課題は多い。カラムシ生産など伝統農法が内包している哲学的認識、伝統農法技術の科学的解明は、第三世界の支援に援用されるだけでなく、日本の山間地域の基層文化の再生を通し次世代の成熟のために必要となってくると思われる。(かんけひろあき 昭和村大岐在住、会津学研究会代表)
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(※1)2010年10月7日、大芦家で開催された会津学研究会主催「コガヤに学ぶ」で報告した柏春菜さん「地域毎の半自然草地維持の仕組みとそのバックグラウンドについて」(岐阜県立森林文化アカデミー森と木のクリエーター科里山研究会)による。
(※2) 『福島県立博物館紀要』第20号(2006年)に、鈴木克彦さんが「昭和村松山物語~2005年の聞書から」を報告している。このなかで「くっつげ放(はな)し」(87ページ)、「カッチギ(刈敷)」「カッポシ(刈り干し)」(92ページ)についての記載がある。カッチギについては雑木の枝を切り積み翌年使用する、とある。

カリヤス(コガヤ、小茅)

10月7日に開催した学習会。コガヤ(カリヤス)の認識が改まった。

■■10月7日(木)は19時より大芦家にて、会津学研究会の小さな学習会が行われた。昨年10月に奥会津に調査された富山県生まれの柏春菜さんの「地域毎の半自然草地維持の仕組みとそのバックグラウンドについて」である。




 岐阜県立森林文化アカデミー森と木のクリエーター科里山研究会に所属し、今春春に卒業研究として発表した論文をもとに1時間、スライド映写(PPT)を使用して報告いただいた。富山県・岐阜県・長野県の4集落のカヤ(ススキとカリヤス)利用の聞き取りと植物相調査、当地昭和村大岐を加えた草の利用の考察が行われた。



 昭和村での事例として、カラムシ生産を支える伝統的な基層技術として春のカラムシ焼き(焼畑)には、必ずコガヤ(植物和名カリヤス)を使用している。しかし最近はボーガヤ(植物和名ススキ)が繁茂しそれしか入手できない状況にある。集落の農業が衰退し、真っ先に森林内に維持されてきた「カヤカリバ(カヤバ、茅場)」の共有地(コモンズ)が森林に戻ってきて、あるいは杉やカラマツの造林、集落開拓等により焼失している。一方、耕作地域が柳やススキが繁茂しいわゆる耕作放棄地が野に戻っている。



 コガヤの社会的役割を探ることと、今後のコガヤの復活を企図して今回の学習会は開催された。植物が支える社会、の構想の意味を考えた。





 → 千葉県一宮市から参加されたマツヤマさん



 → 村内からの参加者



 → 大芦家



 → 菅家博昭付板



■繊維植物を得るために畑に受け付けた宿根草のカラムシ(苧麻・青苧)の生産に、乾燥したコガヤ(カリヤス)が重要な意味を持っています。雪融け後の5月に出てくるカラムシの芽を揃えるために、畑にコガヤを散らして焼き、カラムシの発芽を揃え、ひいては均一な成長をうながすためには、細いコガヤが最適であることがわかっています。火入れといっても火力をどのように維持し、かつ均一に焼き、そして目的とする植物の品質を高めるか?というなかでコガヤを取得する草地(半自然草地)が、各集落ごとに、共有地(コモンズ)として近世江戸時代から維持されてきました。しかしコガヤ草地を維持する、という野へのはたらきかけの基層技術がなにひとつわかっていません。春の山焼き(つけっぱなし)、秋のやまのくちあけ(かまぞろえ)ぐらいでしょうか。今回の柏さんの報告を聞くと中部日本では夏に数度茅場(半自然草地)の他種植物の除去・掃除が行われています。その除去した草はまた別な用途に利用している、という姿がわかってきました。昭和村におけるカヤカリバ(茅場)は、屋根材のためのカヤ取得ではなく、冬囲いとして家屋を雪圧力から守り、その融雪後カラムシ畑に運ばれてカラムシの品質確保のために「焼畑」のために、使用されていました。





■10月23日に昭和村の隣村・南会津町舘岩地区水引で茅刈り体験会(ツアー)が行われます。 →山村再生塾

■初出記事 → 菅家(記憶の森を歩く10月7日)   →10月8日





2010年10月4日月曜日

10月7日19時開催カヤ学習会

2010年10月4日

関係各位
会津学研究会 菅家博昭

植物が支える暮らし~カヤ(ススキ・カリヤス類)の民俗利用について(報告会)

 前略
 下記日程にて報告会を開催します。参加下さい。
昨年10月に奥会津で、カヤ(植物和名ススキ・カリヤス類)の民俗利用について調査された柏春菜さん(富山県内生まれ、岐阜森林文化アカデミー里山コース就学後今春卒、現在、新潟県内のNPO事務局勤務)をお迎えして、世界遺産富山県内五箇山合掌造りでのカヤ調査事例を含めたカヤの利用実態についてスライド上映とともに、1時間ほど、柏さんのお話を聞きます。その後1時間ほど参会者でカヤ利用について懇談します。
 特に、奥会津では、家の冬囲い(フユガキという)、からむし畑を春に焼くための焼き草、畑を囲む垣、しきわら等に利用しています。共有地での採取規制(やまのくち、かまぞろえ)。ススキ(ボーガヤ)とカリヤス(コガヤ)の違い、、、、、などを学びます。
 会場は10月1日に開店した大芦家です。入場無料です。参加下さい。
 なお資料等準備のため事務局の奥会津書房(遠藤由美子)か、菅家博昭まで10月6日午後5時までに、事前連絡申込をお願いします。会場の容量は、おおむね20名程度収容です。その場合、参加については申込先着順となります。

開催日時 2010年10月7日(木)午後7時~9時
開場・受付は午後6時30分より
場所 〒968-0214福島県大沼郡昭和村大字大芦 大山祇神社前 
   ファーマーズカフェ 大芦家(おおあしや)
   ※大芦家の駐車場は5~7台駐車できます。また付近の空き地に停めます。

参加申込先:会津学研究会事務局 奥会津書房(遠藤由美子)
      電話0241-52-3580
      ファクス0241-52-3581

oab(at)topaz.ocn.ne.jp
      (at)を@におきかえてください。

昭和村大岐 現地事務局:菅家博昭 
      ファクス050-3588-0956
      kaken(at)cocoa.ocn.ne.jp
カケン、です。(at)を@におきかえてください。

     ダイレクトメッセージ → 菅家博昭ツイッター




※年に1冊刊行している雑誌『会津学』6号(会津学研究会編・奥会津書房刊)は9月に入稿終了しており近日発売されます。大芦家(バックナンバー完備)、道の駅みしま、会津若松市内の主要書店等で販売いたします。また奥会津書房でも通信販売による頒布をしています。

→ 大芦家

 → 大芦家主人佐藤孝雄ツイッター

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■2009年10月のフィールドノートより

 → かさわら

 → かやかり

 → うまのものがや

 → おおだれ

 → こがやのおばかり・なえばかり

 → 2009年10月 地域の調べ方

■2010年10月の論

 → かやかりば・かやばの位置

 → 柳沢かやば

■からむし工芸博物館では「からむし畑」企画展開催中

 → からむし工芸博物館