■2008年12月25日(木)18時30分、福島県内のNHKテレビが放映しました。
■東北文化研究センター誌『まんだら』2009年への原稿
会津学研究会 菅家博昭
二〇〇八年の秋は、アメリカ合衆国発の地殻変動が世界を覆うことになり、記録に残る年になった。九月一五日には証券会社リーマン・ブラザーズが破綻し、世界同時不況が広がっていく。一方では新たに黒人初のオバマ次期大統領が選出された。
日本では自動車会社、電機会社が千人単位の労働者の削減を発表、実施し、殺伐とした年末を迎えている。
私の暮らす奥会津・昭和村大岐という標高七三〇メートルの集落では、地球を覆う国際経済とは反対に、いつもと同じ、平年並みの順調な降雪となっている。ブナが落葉した十月三十日に一四八二メートルの博士山頂に初雪、十一月八日に二回目の雪。十一月九日に集落に三十センチの降雪で、家業の花の生産はすべてを終了とした。十二月六日に二十センチ、十四日に五センチ、、、、と根雪となっていく。
そんな雪が降るなか、奥会津地方の小中学生・高校生の聞き書きがまとめられた手書きの原稿用紙を、私は、毎日、繰り返し、読んでいる。
八十七歳の祖母から話を聞いてまとめた中学二年の男子M君は「大切なもの」という題でこんなことを書いている。
「『昔は学校で勉強なんてできなかったんだぞ。家の手伝いがいそがしくてなあ。豆腐作りを手伝ったり、、、、これだけは言うぞ、何でも自分でやることが大切だぞ。悪いことは絶対にするでねえぞ、、、、』ばあちゃんが泣きながら、しゃべっているのをみて、つらいことや、楽しいことなど、いろいろのりこえてきたんだなあ、と思いました。昔のことがしれて良かったです。ぼくが今ここにいるのもばあちゃんのおかげなので、ばあちゃんには感謝したいです。
この夏、会津学研究会の拠点である奥会津書房が関わりながら、「奥会津・こどもの聞き書き百選~一枚の写真から」に、六町村から小学校四、中学校五、高校二から、計百十七点の応募があった。只見川電源流域振興協議会(会長・只見町長)が主催、奥会津の生活史を掘り起こし、後世に継承していくのが目的で、新しくはじめられたものである。
奥会津書房はこれまで子どもたちの聞き書き集や、高校生の聞き書き講座などにも関わっており、その一部を雑誌『会津学』に掲載してきた経緯がある。また、ゆとりの時間のいわゆる課外授業は地域文化を継承する意味でとても重要な役割を果たしてきた。たとえば昭和村の小学校では苧麻(からむし)生産・制作の現場に小学生が出向き、古老たちから聞き書きをしてまとめた記録を壁新聞にし、自らも糸作り、小さな布作りを教わりながらそれを展示している。継承とは、老人と子どもが直接会話することが大切であり、家庭内でそのことを奨めることが聞き書きは手段のひとつになっている。