2007年5月25日金曜日

聞き書きの周辺②ふんばぐ fun-bagu


聞き書きの周辺② ふんばぐ 

(福島県昭和村大岐 菅家博昭、農業)

■2007年5月24日(木)、前日から仕事で上京していたが、午後の首都圏でのMPS切り花の店頭でのテストマーケティングが日程が変更になっていたことを知らされ、取材を予定していたのが、時間があいてしまった。

■この春に福島県内のF大学の行政社会学系学部に入学したわたしの一人娘のKに携帯電話から「今日の日程は?」と、メールを送った。すぐに電子メールで、返事がきて、「今日は授業が午後2時に終わり、それ以降の予定は無い」ということだった。
 それではと、Kが住み始めた大学に隣接したアパート前で「午後2時30分ぐらいに会おう。市内の書店に行こう」ということになった。

■東京駅から東北新幹線で郡山駅で降りて、その近くの駐車場に停めておいた自家用車にて国道4号線から東北自動車道の本宮インターチェンジから、サービスエリア内からETCカード搭載車だと出ることができるM地区から、F大学のある地域に向かった。

■待ち合わせ場所に、大学からの帰りで、黒い布袋(トートバッグ)を持ってやってきたKに、わたしは、午前中に見てきた無○良品・有楽町3階の「葉っぱ」展のリーフレットと、『プランテッド』折込のJFMAのMPSリーフレットをプレゼントした。彼女は「なに?」といった。Kちゃんは、このデザインやレイアウト、リーフレットのコンセプトはどう思う?
 それの一通りの説明をわたしから聞いたKはそれを黒い布袋に入れた。この袋は大英博物館のロゼッタストーンがプリントされていて、わたしが以前に贈ったものだ。

 自動車に乗って、丘陵地から田植えの終わった田園地帯を抜けて住宅地を越えて商業集積地、、、、、いわゆるバイパス道路の大型量販店の並ぶ地域に向かった。

 当初行こうと計画していた岩○書店の郊外大型店ではなく、道すがら見つけた西○書店という1909年創業という郊外大型店舗に行った。そのほか、衣料品店を2箇所まわることになった。

 夕食は大型ショッピングセンター内のフードコートで、食べた。これからは、そのときの話である。わたしが今日来た目的は、今月半ばに、地元であの事件があったから、わたしの父母が彼女、つまり一人暮らしをはじめた孫にたいして、「いろいろと、社会のことを、ひとづきあいのしかたとか、よく教えてこいよ」ということがあったからだ。意識して、自分の子どもに伝える、ということを、わたしも、自然に行おうとした。

■いっしょに食事をしながら話す、ということはとても大切なことで、記憶に残るのだ。

「大学は慣れたか?」

「うん」

「でも不便な場所、山の上にある大学だから、街やお店に遠くて買い物もできないな」

「でも、このまえ他県から来たゼミの女の子の友達と電車で駅前まで来てカラオケを6時間やったよ」

「はあ、、、、すごいな」

「彼女は標準語しか話せないから、たまに会津の方言で話すと、彼女は笑うんだ」

「そうだべな」

「きゃはは、、、そんでもって、この前、ふんばぐ(fun-bagu)って言葉使ったら、なんだそりゃ、、、、って話になったの」

「それは会津若松の人でもわがんねべな。昭和村の言葉だもの」

「えっ???」

「パパ(わたし)は農家だから、Kちゃんがちっちゃいころはオーマタに連れて行って花作りやってたから、それはオーマタの方言だぞ」

「ばーちゃんの言葉だったの?」

「そうだべな」

「そーか。寝ていて、ねぞうが悪くて、布団を脚で押し出してしまうことを、ふんばぐっていうからな。ばーちゃんがその布団をまた、そっとわたしに風邪ひかねようにってかげてくっちゃから、覚えてんだなあ」

「そうだな。言葉は暮らしとともに記憶されてっから。パパはいま、昭和村のお年寄りから昔の話を聞いている」

「なにそれ」

「土地の名前、山や谷、沢についた小さな名前は、その当時の暮らしを支えた仕事や生活に密着しているから、その地名がわかるひとは、そこにいって何か、山菜とかクマを獲ったりとかやってたことがわかる」

「ああ、いつものやつね」

「でも、この前のじいちゃん、、、、90歳近いひとだったけど、小学生の時からウサギを獲ったりしてたって話をしてた。そして雪崩で埋まった谷に、雪どけ水があけたトンネルの中をくぐって親に山菜採りに連れて行かれたって話しがはじまって、その雪のトンネルを『ゆきうど』って呼ぶことを、はじめて知ったんだ。すごい言葉が出てきたんだ。4月に隣町では、そうした雪で埋まった谷、、、、雪崩で埋まった谷の雪の上をわたって歩くから『なでばし(雪崩橋)』っていう言葉をはじめて聴いたばっかりだったからな。隣の地区は、雪崩の雪の上を歩き、こちらの地区の人は雪崩でできた雪の穴の中をあるくんだぞ、、、、狭い地区によってその雪崩を利用して移動するしかたが違うんだ、、、、パパにとっては最近にない大発見だったから、会津学研究会のブログにその日のうちにすぐ書いたんだ」

「はあ、、、、それはすごいね。他県から来た友達をこんど大学の夏休みに会津の昭和、、、、オーマタに連れてってホームステイさせたいんだ。なんかこの大学がある県庁所在地がとても地方で山の中だって、驚いているから、、、、じいちゃんやばあちゃんが住んでいるオーマタに連れてったら、たぶんショックだと思うよ。言葉も違うし、食べ物も、たぶん山菜なんて食べたことがない。でもとてもいいところだと感じてもらえると思う」

「山の中は冬は雪に囲まれてなんの音もしないけれど、夏は、夜はカエルの声や虫の声、、、、昼はセミの鳴き声で、狭い谷が音の洪水だからな、、、、たぶん、それに驚くと思う」

「ああ、、、パパ、、、、いまの大学前のアパートのまわりは田んぼばっかだから、暑い夜に戸をあけて網戸にしたら、眠れないほどカエルの声ばっかで、会津若松よりすごい田舎だよ」

「そうか」

「夏休みが楽しみだ、、、、、」

■学業とは別に、マンガを描くか、油絵を描くか、独学で勉強するための本を買ってみる、ということになった。別れ際に、5月22日にわたしが書いた『聞き書きの風景①』のA4・4枚にプリントアウトした原稿を、彼女に渡して、大学生活も「はしか」にかからないよう、話して、別れた。自動車を運転して自宅に戻ったのは22時。地域で聞いたことは、まず、身近な次の世代に語って伝えることが第一義である。まとめて出版するまでに聞いた感動が薄まる。あるいは会津学研究会の月1回の例会で、聞いたことを語り合うことで、その承けたものを消滅させない意図的な行為が、地域研究ではいちばん大切なことになる。本で伝える前に、まず言葉で伝えることが必要になる。本は100年後への贈り物として位置づける。