2008年5月31日午前八時三十分、に父・菅家清一(昭和七年生、七十五歳)、母ミヨ子(昭和八年生)より植物ヒロロ(ミヤマカンスゲCarex multifolia)のことを聞く。
先日(5月29日午前)、金山町川口高校で授業で話す機会があり、そのときに使ったヒロロを干したものを五月三十一日の朝八時三十分、コタツにあたっている父母に見せる。三島町生活工芸館から入手したもの。雨の寒い日。気温十二度。
父・清一:照だち、こだつ(炬燵、コタツ)取って震えてるようだべ寒くて。
母・ミヨ子:このめえのあったけ日にコタツとった。
父:トラクターのうっしょのダンプ付いているうちに畑さ堆肥三回運んだだぞ。
父:こうだの(ヒロロ)どこにでもある。
ヒロロなんのここらの山ん中さ どこにでもあんだ。
おらいの植え付けの杉ん中の林なんかどこにでもあんべ。
こごらでは、ヒロロのねえどこねえだ。
いまちっともようと、古物ばあしで花咲いてから新芽出てくんだ。
博昭:何に使った?
父:これはミノだわや。ヒロロミノに決まってる。
おなごてえはホソミノ。
おとこてえはアマミノやってだだ。
おらいのセエオヤジはアマミノ、、、、
母:なんでもきれいだ。家のがなはこれより広いぞ。
博昭:いつ頃取んだ?
母:これは二百十日になるころ。
父:あのころヒロロぬきさいったとおもったな。
博昭:どこさ?
父:はじめてヒロロヌキいったのは、オヤジにくっついて、
オウゴンザアの滝んどっからだ。
博昭:なんで、そんな遠くまでいったのや?あ?
父:そこにあっからや。
博昭:裏山、ここにあっぺや。
父:(笑)にしゃ、ヒロロじゅうは、きだちのなかの きおっくらけえったなかの、すきまできべえ。天道様(太陽光)あだっどこ、そこさはいいヒロロできでくんだ。そこさオヤジど、滝の下から沢があんだひとつ。いいヒロロあんだ。滝の下さ、沢あんだ。
博昭:いいヒロロ、悪いヒロロの基準はなんだ?
父:長いのが、いいヒロロや。べらぼうな、そんなごどもわかんねのか?谷地(湿地)っけのようなものはみしけえべ、こごらのがな。
ヒロロねえどごねえだ。どこんでもあんだ。
谷地でもねえが、沢っけにある。
山のすてっちょう、どこんでもあっけど。あれのこえでっとこ、
地福、肥沃のあっとこが長いヒロロできんだわや。
父:ウバヒロロどって、ちっとこれらより、ちっとひれえのや。
これらはいえほうだわ。
博昭:ホンヒロロ(ミヤマカンスゲ)とウバヒロロ(オクノカンスゲCarex foliosissima Fr. Schm.)は取り方は?
父:ウバヒロロだって、なんだってすかすかとるわや。
なかなかひっこぬけなくて、ぽつ、ぽつって抜くのや。
ふわふわしてっから、根までひっこぬけんだ。
そんじぇはうまくねから、足で株を踏んで根を抜かねように抜くだ。
母:一本一本抜くだぞ。たいへんなあだぞ。
父:彼岸のめえとか、取った覚えあんだが。
おらいの林とか、炭窯の下のほうとか、
ちっとてえらなようなどこ。
きだち(木立)のなかのすきたようなとこ。
博昭:いくつのころ行ったの?
父:学校上がったら、学校の頃?
母:高等二年。尋常小学終わってから高等どって二年でる。
父:彼岸の頃行ったとおもってんだ。稲刈り前。
いまは植え付けになったが、おら、よーぐおべえでんだ。滝。
おごんざあの滝の、今の土橋んどっから入っていくど、ちょうどいえだ。
滝の下さ砂防ダムできた。ちっちぇ沢あんだ。
その沢がハタヤマの地蔵様までいってんだ。
オゴンザアとくっついだくれんどこ。
ヒロロ抜きやって。
(左手で親指と人差し指で輪を作り)
このぐらいの束にして、
ワラで丸って、おっけで、これくれいの束(そく)にして背負ってくる。
重てえほどなんで、とるよねえだ。
これカテアミみてえに縄で編んで、ほらいまだと
モチアミみてえにぬきば(軒端)さ下げる。そして干すだわ。
おとこてえは、みんなアマミノ作る。
じさま、セエ爺、オヤジはミノつくってっとこみだごとねえな。
父:毎年ヒロロとんなんんねだ。
博昭:した、何年も持つんねえの。
父:アマミノ(雨ミノ)のは何年も持つ。
にしゃ、きれんだぞ。
毎日、しょっかたなんだから。
母:たゆうさまのほうでは、あゆう、ホソミノが無くて
父:向こうはアマミノよけいでやっただ。
博昭:カゴは作る。スカリって言うんねえの?
父:カゴはカゴだ。そんなこどゆわね。
母:あれ、としょばあはカゴ作りやった。
父:あ、やったやった。
かごじゅうは、これよって、こうやってやんだが。底だげやって、
こうやって木型をしばっておいて、それどおんなじに伸ばしてくる。
でっかさ決めてからやって、なかなかほいきたとはいがねだぞ。
底がこのくれで、高さがひとっぱりとか、ひとっぱりはんとか
決めてから、編むだ。
底縛っておいて、ぐるぐる編む。
昔は長いから、あれぶんなのよりぎんねから、
よりより、こうやっていた。
母:私はやったごどねえ。ヨシコ姉はやったごどある。
博昭:その、これは動物はくわねのか?
母:くわねんねえがな。
父:動物喰うよ。
母:喰うのが?でだばっかしのころ喰うのが?
父:そんねそんね。青いのはなんでも、あの、青草がなくなっと、
これ年中あおいべ。ウサギでもヤマドリでもなんでも喰う。青いもの。ササッパなんど大好きでこれ喰うだ。ヤマドリでもなんでも。こう崖みでえなとこで、雪んどき出てっときは、青葉っぱ無くなっとウサギでもヤマドリでもなんでも喰うだ。
博昭:喰ってっとこ見たことあるの?
父:ヤマドリ喰うから そこをねらって 鉄砲ぶちはあるくだ。崖で すきでべ、そこササとシダとヒロロがていげいあんだ。川ばたは、川のために雪がずずっと落ちて隙間あいてっから、そこをヤマドリを喰うわけ。ヤマドリぶちはそうどこを狙ってそこを歩くだ。
たあだんどごあるったって、いねから、ヤマドリじゅういねえだ。
てえげえ、ヤマドリは沢あるくだ。まったく何にも知らねえだ、、、、、、、
父:こごらには、ヤドリギどって、ホヤじゅうあべえ。ホヤが、ホヤじゅうはそねにあっから。ホヤ喰って水飲むために、沢に降りて水を飲む。
ササとシダとヒロロ喰うんだ。きまってんだ、ヤマドリは。
キジ(雉)じゅうは冬山では、いきでいがんにぇだ。ヨモギの実とか実を食いたがんだ。だがらササッパとかくわねがら雪国は、冬に雪の中でいきでいがんにぇだ。
母:キジ放したってだめだ。
博昭:これ以外に?
父:カサスゲどかユワスゲどか。カサスゲはおらいのあそこにあっただ。いまあっぺがな。杉んどこにあっただ。愛子がいのいっとしりっぽに、広くて、ほうでもねでっかくはなんねが、カサスゲじゅうあったの。
母:ひろいがな。
父:ユワジタにあったの。ユワスゲぶちにあったのはユワスゲんねえが。
母:昔タアネの。
父:おらいの大田の崖のところ。
サケノサのでっくちの下さ行ったら、ユワスゲばあしだ。
母:それは笹巻きまく。ヨシコ姉はほそーいもので。
父:笹巻き?
父:ユワスゲブチじゅうは大田んどこ。あそこ、奈良布の下、ユワスゲがずーっとあんだ。
あそこらの山ってがずーとタアネの田でやったあだ。よぐよぐくっされ田もらったあだ。
博昭:神様に使うか?
父:使わねんねが。シメこしぇえるのは青いまま稲を刈ってやんのはしってんが。
博昭:ネホグシじゅうは、やんねのが?
父:ここらはやんねな。
母:やんねな。
父:-----
母:ミツヨリか?そんじぇねえとこまっこくなんねから。それはやるわや。
それは、うーと、こする、、、、
父:こすり縄んね。別に、名前あんだ。
父:昔は、ワラ仕事やるに、じょーりつくるさ、もとさへえるものは磨きかけて、つるつるにしただ。こういうどこ、ワラふたとこかけて打つ(ぶつ)。しばったがなで、これこしぇーで、それをこしぇえて、
母:学校でなわより競争もあった。
母:ひっちばってな。かあちゃんだちなんの、そーだごどしね。いくひろもこうして、炭焼きんどき。
※父が二階の天井に行き、何か持ってくる。
父:三十年とか、五十年どが、、、こんなもんだな。ほうざらげで、これらはウバヒロロじゅうだ。ひろいがら。ワラで縛っておくだ。オレ取ったではねえ。二束(わ)ある。こんなもんなだ、おらほのヒロロは。
ここらは中のほうは青いどこあるは、、、、ここらは細いものある。
これらはウバヒロロ系統だ。広いのは。
たいしたもんだ。
博昭:写真とっからそのまま置け。
父:わっさしてっこどね。
母:じさま死んで三十三年たってんだが。
父:オレはあんまとった覚えねだ。うっしょの方もヒロロあんだ。サンボダケ出てツチアケビあっとこ。あのうえのほう、いっぺあんだ。にしゃバサマといったどこ。
陽当たりいいから、、、、ヒロロは良い。
博昭:花が咲くだから、種で増えんのが?
父:種でふえっかもしんにぇが、オレはしらねな。
まあ、どこんでもあんだ。ヒロロねえとこねえ。
根はって、ちっとば根はってんでねえだがら。
まあなんだがしらねがこまっけ根いっぺ出て、ずむね、地面に乗っている。
ひっこのぐど、これ、ひっこのべえと思うど、こうだにくっ付いてくる。簡単に抜けねだ。
セツあって、おらいのオヤジだちは「いまのせつんねと、抜けねどか、あど、ぬけなくなるとか、あんま遅くなっとぬけねとか、セツで。彼岸すぎっとぬけねどか、稲刈り前に抜くとかあんだ」
そのころだけだぞ、せてってもらって、抜いた。それだけだオヤジどいっておべえでんのは。
博昭:ハバキは作っながったが?
父:ヒロロで作ったが、ハバキじゅうは、ガバ(蒲)でやって、これで編んだ。
あれはきれいだわいな。サクジイなどはなにやっても上手でやった。
トラジイ様などはよっぽど遅くまでハバキやってだ。
母:いまならスパッツだわや。オノガジイは編むひまなかったから。高いだぞ、ミノじゅうは。オノガジは向こうから買ってた。
父:フクイオヤジがヤスジ、ヤスオンツア。ゲンベどか、ミノ作りしょうべえにやってて、ミノみっつも、よっつも、いつつも作って、シンゴジイが親、あれらなのミノ春先なっとみなのきば(軒端)さずーっとかけてさらしていた。さき雪でちっとさらして、せがら軒端さこうかけて。むこうの方のジサマまみなミノ作りやってで、冬うちにみっつもよっつも作って。
母:アマミノは高い。
父:最後のころはおらいも買っただ。
おらいの菊蔵ジイは本気でやった。おらいのセエオヤジはやんなかったんねがな。
母:やるよなかったべ。手悪いから。
父:おれだちころは合羽じゅうでたから。
向こうは、新しいミノは雨ふっとき、新しくねえのはミノは背負っかた。向こうはホソミノじゅうねがった。
母:にっしゃだち、かあちゃん、オオハラんどき、このくれの合羽こしさまいて、新しくねアマミノだどじき背中ぬれんだ。ひゃっこくなっちまあだ。
父:大岐では、キハッツアン、オンツアジイ、ていげいの人はミノ作ってただ。
父:ヒロロじゅうは、必ず、沢っぱたにあんだ。川まであるわや。ヒロロ。ヤマドリでも青物、ウサギでも何でも喰うのや。ササ、寒中んなっと、オゴンザワ、ウサギぶち行くとソネ際は風でササ出ている。そごさウサギ集まって、木まで喰う。
母:ウサギ喰うものは人間喰われるんねえの。山歩きやんねがら私はわかんね。
父:デゴヤの上のふっつあらしなんのは、雪が無くササが出てる。
あんまり風が強いどこはササ枯れっちまあ。
父:家のまわりに植えたりしねがった?
父:ひでえめあった。水道のホース引くとき。
ヒロロなんのどこんでもある。ヒロロねえどこなんてねえだ。
おらいの植え付けんなかの杉にあっぺ。
いまちっともようと、新芽がでねえだ。古物ばあしで、花終わってから遅く新芽が出て来る。カゴでもなんでも上手な人は細くやって、カツジ兄なんかずっと遅くまでカゴ作ったり、ゲンベ作ったりしてたわ。出稼ぎじゅういがなかったから、あの人は。
カツシロあんにゃは出稼ぎ行ったから。