2008年9月8日月曜日

会津学夏季講座終了



■楢枯れと会津学4号発刊、夏季講座

 資源高騰の時代となり、石油を焚く農業が出来なくなった年でもある今年、この6月の岩手・宮城内陸地震により東北も地震への備えが必要であることが再認識された。東北南部の福島県会津地方には会津盆地西縁断層帯が南北35kmにわたり横たわっており、この活断層の活動により形成された丘陵地の樹木に異変が起きている。これまで局所的にマツクイムシにより被害が見られたアカマツの樹林のほとんどが、この夏に枯れた。9月はじめに枯れた丘陵が数十kmにわたり続く光景は樹難の年として記憶される。磐越自動車道で会津若松から新潟に向け進み、この断層帯丘陵に造った会津坂下トンネルの両側のアカマツは枯れているのがよく見える。トンネルを抜け、会津坂下インターから只見川を遡上し柳津町・三島町に入るとミズナラ・コナラの楢枯れが目立つ。2000年に新潟県境から会津にカシノナガキクイムシ被害が入り込み、現在は柳津町・三島町・会津美里町等の楢を中心とした広葉樹林が広く枯れている。宮川流域では植林した杉の一部も枯れ始めている。会津地方の基層文化をささえた森林が低標高地から消滅しようとしていることにたいして誰一人危惧を抱かない時代である。
 この樹林から選び出した木や草を利用して人びとは暮らしを立ててきた。昨年夏に、福島県立博物館は鹿児島県の黎明館と共同で企画展「樹と竹」を開催した。それが縁となり、この夏の終わりに鹿児島県内の民俗学研究者が6名、奥会津の村々を歩いた。

 9月5日、6日と福島県三島町の交流センターやまびこを会場として会津学研究会主催による夏季講座を開催した。「北の民具・南の民具」をテーマとしたが、鹿児島県から来県された方々の研究成果を短く報告していただき間方集落でのフィールドワークや、討論を参会者30名余で行った。進行は佐々木長生さんに依頼した。
 南西諸島のことを含め鹿児島民俗学会代表幹事の所崎平さん、牧島知子さん、米原正晃さん、出村卓三さん、新納忠人さん、川野和昭さんから話をうかがった。所崎さんは神舞と食べ物について、牧島さんは芭蕉布・葛布・芙蓉布など植物繊維を原料として織物について、米原さんは地引き網漁、出村さんは沖永良部島のムン話の分布が集落の境界のマタと呼ばれる窪地に集中していること、川野さんは野牧絵図のオオカミの作喰狩(犬ねらい番所)について話題を提供した。
 赤坂憲雄さん、佐々木長生さん、地元間方の菅家藤一さんを加え、奥会津と南西諸島の違いと共通点を明らかにし、今後地域学研究や聞き書きのあり方が議論された。
 『会津学4号』が8月に発刊され、その巻末にハラミドリヒメギスという奥会津から新潟・山形の山岳地帯の豪雪地帯に生息するキリギリスの生態について、山形県小国町の草刈広一さんからの調査や研究報告も行われた。最終に会津で進行する楢枯れにどのようにして人間は対応したらよいのか?という議論がなされた。小さな昆虫が広く社会の基層文化を変えるほどの威力を持つ時代であることが強く印象に残った。 
 来年5月末に鹿児島県の沖永良部島で地域学の会合を開催することが決まり、会津学研究会からも参加することを決めた。 菅家博昭(農業、会津学研究会代表)