2008年9月3日水曜日

かやぼっち(kaya-botti)




■2008年9月1日午後。立春から数えて210日の日、会津地方の柳津町で、ススキを刈り取る70代の老女がいたので話を聞いてみた。自動車を停めて、作業をしている場所に歩き近づく。

 電動カートで離れた集落から山奥の田んぼに来ている、人は多くなった。この女性が自分で運転して乗ってきた電動カートには「すぐったワラの束がいっぱ(一束)」後部荷台に載っている。縦縞の木綿地、もんぺのようなズボンに長靴、水色の上衣に濃えんじ色の布の手差しを軍手の上に掛ける。紺の図柄の入った1枚の手ぬぐいを頭にかぶり頬を護り、そのうえに、日よけのための市販されている、赤いひものついた麦わら帽子をかぶる。その幅広の布ひもの赤は正面にむけている。長さ50cmほどの木製の白い柄のついた鎌の金属製の刃は幅広で、左手で持ったススキ(かや)の根元を右手に持った鎌の刃をあてて引ききり、その後、穂を根本から落とす。腰に結わえた「すぐったワラ束」から数本、ワラを右手で引き抜いて刈ったススキを結わえる。ワラ束の根本は引き抜く側の右腰にしていて、ささくれだたないように、抜きやすい方に付けている。一連の作業は熟練したものだ。自然と体が動く。




「こんにちは、、、はじめまして」

「???」(作業を停め、帽子を取り、頬被りした手ぬぐいをはずす)



「あの、このススキを刈って束ねて立てたものは、なんて呼ぶのですか?」

「???」



「萱(かや、、、ススキのこと)刈りですか?」

「そうだけんども、、、何でそんなこと聞くのや?」



「呼び名を調べているんです」

「ここは、田んぼだったけど、荒らしてしまったら萱(かや)が生えてきて、その萱を毎年刈り取って、持ち帰って、畑に堆肥にして入れて来年のためにしてんだ。田んぼはワラが入っからな、だげど畑は何も入んねべ。だがら萱入れんだ」



「刈り取って何日ぐらい乾燥するんですか?」

「今日、刈り始めたけんど、くたびれっから(疲れるから)、刈って倒してだけおくんだ、、、、」



「束を組んであの立てたふたつのものは?」

「かやぼっち」



「かやぼっち、っていうんですね」

「そうだけど、ほら、あそこの田んぼにいる親父はよぐ知ってっから、あの人に聞くといい」



「手を止めてすみませんでした。ありがとうございました」

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「おじさん、あれは、カヤボッチって呼ぶんですか?」

「そうだ。今刈り取って、30日くらい乾かしてから昔は背負って帰ったもんだ。あのな、稲刈り前に萱を刈って立てておく、その後、稲刈りをやる。稲刈りが終わる頃に、萱は乾き、軽くなるから背負ってもラクに家に持ち帰るんだ」

「ありがとうございました」

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■仕事がうまく組み合わされている。萱(かや、ススキ)は屋根材、堆肥、冬囲い、動物の飼料などになる万能素材。

■植物を刈り取り、立てて干す。軽くしてから運搬し、そして使う。

■東京新聞2月3日、聞き書きの旅を続ける野本寛一さん